みずうみ
<だいたいお母さんてものはさ
しいん
としたとこがなくちゃいけないんだ>
名台詞を聴くものかな!
ふりかえると
お下げとお河童と
二つのランドセルがゆれてゆく
落ち葉の道
お母さんだけとはかぎらない
人間は誰でも心の底に
しいんと静かな湖を持つべきなのだ
田沢湖のように深く青い湖を
かくし持っているひとは
話すとわかる 二言 三言で
それこそ しいんと落ち着いて
容易に増えも減りもしない自分の湖
さらさらと他人の降りてはゆけない魔の湖
教養や学歴とはなんの関係もないらしい
人間の魅力とは
たぶんその湖あたりから
発する霧だ
早くもそのことに
気づいたらしい
小さな
二人の
娘たち
茨木のり子さんの、『おんなのことば』という詩集におさめられている、「みずうみ」という詩です。
名詩を読むものかな!
茨木のり子さんの詩は、いつも鋭くて、日頃ぼんやりと感じていることをスパッとした言葉でとらえて見せてくれます。
キレ味抜群な詩人さんで、とても好きです。
いや、好きというか、読むたびに
「しっかりしなさい!」
とカツを入れられているような気持ちになるのです。
それにしても、この「みずうみ」の二人の小学生女子……鋭いこと限りなし(笑)。
「お母さんていうものは、しいん としたとこがなくちゃいけない」
なんて言われたら、久しく「しいん」となんてしていないお母さんである私としては、タジタジでございます(笑)。
小学生であっても、女子は女子。痛いところ、ついてきます。
まさに「おんなのことば」ですね。
そして、その「しいんとしたところ」を「心の底のみずうみ」と表現する茨木さんの言葉に敬服します。
学生時代に知った、
「自分の感受性くらい」
という詩も、初めて読んだときには、頬をペシッと叩かれたような気持ちになり、思わず背筋が伸びたものです。
有名なのでご存知の方も多いと思いますが、ご紹介します。
自分の感受性くらい
ぱさぱさに乾いてゆく心を
ひとのせいにはするな
みずから水やりを怠っておいて
気難しくなってきたのを
友人のせいにはするな
しなやかさを失ったのはどちらなのか
苛立つのを
近親のせいにはするな
なにもかも下手だったのはわたくし
初心消えかかるのを
暮しのせいにはするな
そもそもが ひよわな志にすぎなかった
駄目なことの一切を
時代のせいにはするな
わずかに光る尊厳の放棄
自分の感受性くらい
自分で守れ
ばかものよ
……頬を張られっぱなしです(苦笑)。
詩というと、昨今の日本では、甘く夢見がちでふわふわとした、いわゆる「ポエム」のイメージを持つ方が多いかもしれません。
でも、「詩人」と呼ばれる方たちの詩は、暮らしを見つめ、魂を見つめ、命を削って言葉を刻んでいるようなものに感じられます。
韻文は、言葉の数が少ないので、1つひとつの言葉に込められた熱量がとても大きく、パンチがきいているので、読む側もエネルギーを要します。
でも、ガツンと心に響く言葉は、折に触れて自分を励まし、まさに「心への水やり」ですよね。
こういう水やりを怠ると、「心の底の、しいんとした静かな湖」が枯れて、干上がってしまうのでしょう。
感受性がパサパサで、ドタバタと騒がしいお母さんにならないよう、いい本を読んで、いい映画を観て、心に静かな湖をたたえたママンでいたいと思います。